天理教小川分教会
奥吉野の峻険越えて敷島の道が上市へ
よろづよのせかい一れつみはらせど
むねのわかりたものはない
そのはづやといてきかしたことハない
しらぬがむりでハないわいな
このたびはかみがおもてへあらわれて
なにかいさいをときゝかす
天保9年10月26日、世界一れつあまねく救けあげたい、との親神様の思召が、
教祖（おやさま）のお口を通して初めて明らかにされた。
明治17・8年頃、その御教を受けられた心勇講初代講元山田伊八郎様が小川村・
川上村・上市方面へ、同じく森口宗八郎様は竜門村・小川村方面へ、また長田八吾
郎様、天明講袋本正一様、南海系統の布教師もおぢばがえりの道中、川上村・国樔
村方面に布教された。
当時を語る資料によると、「風雪に閉ざされた道を踏み締め、草鞋の紐の痛みも
物の数ではなく、幾度の受難の道を真実一路、喜悦の心をもって歩み切られた」と
誌している。
こうした道の動きが一つの芽生えとなり、明治17年、竜門村の内田太平（上市初
代会長）様が入信。続いて、20年、河原屋の福西喜代松（上市三代会長）様が入信
される等、多くの人々がこの道にお引き寄せ頂いて、志賀講が結成された。ここに
上市分教会の道が始まった。
この講中の人達も親戚・縁者へのにをいがけ（布教）につとめ、各地に信者の増
加を見るようになった。国樔村にも復古改祭（改宗）者が十数軒も有り、小川村字
小に於いても八軒の改祭者を見ることになった。こうして各地の講元が志賀講に集
う中、明治27年、山田伊八郎様のご指導の下に、上市出張所が誕生したのである。
小川布教所の設立
先に述べた人々の熱心なにをいがけにより、小川村小89番地、谷裏嘉七(47才)
が長女タツの身上（病気）から入信することになった。小川第一号の信者であった。
谷裏家は旧家で、手広く材木商を営む裕福な家庭であった。重き村の役職もつと
めて、人々にも信頼されていた。たまたまこの時期は壇徒総代という立場にあった
が故に、「天理教などという邪教に迷うとはけしからぬ」と、あるは反対攻撃を繰
り返し、またある者は説得にと色々手を尽くして止め立てた。
しかし、こうした執拗なまでの反対攻撃にも信仰の情熱止めがたく、たんのうの
ご教理を体現して、妻ヌイは庭に土下座して心変わらぬことを詫びた。この一事に、
村人たちも返す言葉もなく引き下がった。
こうして谷裏嘉七は改宗し、家業傍ら講元として布教にもつとめた。講中の人々
の要望と上市出張所の思惑とが相交わり、谷裏家の土地九十六坪を借り入れ、三間
に五間の布教所を建築。ここに小川分教会の歴史が始まった。尚、設立に当たり、
担当者は上市の植田勝造をもって願い出ている。
明治28年
5月25日 小川布教所設立のお許し戴く 教甲第704号
奈良県吉野郡小川村大字小1293番地
担任 植田 勝造
城島部内 小川布教所設置願のお許し戴く
さあゝ尋ねる事情ゝ さあゝ事情はねがひどふりゝ
さあゝ 許しおこふ
6月8日 地方庁出願のお許し戴く
さあゝ尋ねる事情ゝゝ
さあゝ事情は直ぐとゝゝ
7月11日 地方庁認可 指令第1713号
担任教師 植田 勝造
信徒総代 福本 鶴松 外弐名
本年6月21日付其教会 吉野郡小川村大字小1293番地
へ布教所設置願ノ件認可ス
以上の理のお許し、また、地方庁の許可を以て、小川布教所が設置された。
しかし、設立の翌年、明治29年4月6日付を以て、内務大臣令により、内務省訓令
第12号が発せられた。所謂秘密訓令である。当時の本教の布教伝道は燎原に火を放
ったごとく熱烈なものがあり、それがためか、世情の反対攻撃も尋常なものでなか
った。ちなみに、前年来より数カ月に亘って東京の新聞、また、その他が筆を揃え
て本教に対する悪罵毒筆の限りを尽くしていたのもその一例であった。
これを受けて各府県では直ちに管内各部署に対して本教への「取り締まり強化」
の通達を出し、加えてこの年の11月1日、本局より、向こう３ケ年間、普通教会及び
講社結成を停止す、との通達があった。即ち、布教活動が出来なくなったというこ
とである。
この事情に信者の多くは世間と官の干渉妨害に苦労の道中を余儀なくされた。し
かし、燃える信仰の火は消すことは出来なかった。こんな事情の中、所長植田勝造
は小川にあって布教に従事したが、上市のご用にて布教所を留守にする日も増加し
た。こうしたことから、明治31年、道一條の心を定め、上市のご用に、また、布教
に励んでいた松本太平が上市の命により小川にて常住して布教することとなった。
